人のいなくなった街で営巣するツバメ

2012年7月25〜28日に、福島第一原発の事故によって住民の方が避難した地域でツバメの営巣状況を観察しました。
人が住んでいない場所でのツバメの営巣についてはこれまでに報告されたことがないので、駆け足でツバメを見つけてまわった記録ですが、ここに掲載しておきたいと思います。

私たちが訪ねた時点では、福島第一原発から半径20kmの範囲は「警戒区域」で、一時帰宅する住民以外には立ち入る許可が与えられないので調査することは不可能でした。そしてその外側にあるのが「計画的避難区域」で、この場所は各町村の許可を得れば立ち入ることができました。

ツバメの巣を探したのは、以下の地図の円で囲んだ地域です。


調査に訪れた時点の警戒区域・計画的避難区域の地図
地経済産業省HPより http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/20120330_02.html (2013/4/27日閲覧)

訪問した地域のツバメようす

南相馬市小高地区(2012.7.26)

   地震の影響が大きく、中心部の通りでは、古い建物が倒壊していました。
   小高地区は6月にも訪れており、このアパートは、そのときに繁殖を確認していた場所のひとつです。今回(7月後半)の訪問時、小高地区でのツバメの繁殖期はほぼ終わっており、営巣中のツバメの数はわずかでした。
   今年の繁殖に使われた巣が、廊下にありました。
   この建物では、内部に出入りしているツバメがいました。建物の中で営巣しているようです。
 
  この家でも、内部で営巣していました。
    この建物は6月に建物内の造巣を確認していた場所です。
 6月に訪問したときもそうでしたが、建物の外(軒下など)で営巣しているツバメは見つかりませんでした。建物外壁に使用していないらしい古巣はありましたが、見つかったツバメは無人の建物の内部で営巣しているものばかりでした。南相馬市の小高地区は地震で壊れた建物が多いため、外壁よりも安全な建物内部で営巣するツバメが多かったのではないかと思います。 


飯舘村(2012.7.26)

 飯舘村飯樋。お店はあまり多くありませんが、商店街です。
 写真ではよく見えないのですが、巣立ったヒナが50羽ほど、電線に並んでいました。
 飯舘村では、この通りに限らず、あちこちでツバメが営巣しているのを見ました。5月上旬に来たときには繁殖しているツバメが見つからなかったのですが、6月に行くと普通に営巣が見つかる感じでした。7月末には、先に訪ねた小高地区ではほとんど繁殖も巣立ちビナも見つからなかったのに、ここではまだ繁殖が続いている様子でした。小高地区が海岸部の平野であるのに比べて、飯舘村は標高が高いせいで、繁殖時期が遅いのかもしれません。標高の高低によるツバメの繁殖時期の違いは調べられたことがなく、それもまた興味深いことでした。

浪江町 津島地区(2012.7.26)

 浪江町の津島地区は、「計画的避難区域」と、それより先は立ち入ることができない「警戒区域」の境界です。道路の先に見えるのが、境界にある検問所です。
 津島地区で営巣しているツバメが見つかったのは、検問所の建物だけでした。

 車庫の上部に巣があります。写真では棒を伸ばしているのが写っていますが、鏡で巣内を見ているところです。

まとめ

 ツバメが営巣している街から住民が避難して2シーズン過ぎた時点で、まだツバメは営巣していました。人がいなくなると、ツバメもいなくなるという説を聞いたことがありますが、少なくとも、すぐにいなくなるわけではないようです。

 無人の街で営巣しているツバメにも、いくらか人との結びつきを思わせるところがあります。訪問した地域のなかでも、飯舘村や南相馬地の小高地区は、街のあちこちにツバメがよく見られたのですが、これらの地域は巡回や片付けのために多少は人通りがあります。それに加えて、もともと人家の多い場所だったので、以前からいたツバメの数自体が多く、ツバメが多いことによってツバメを引きつけ続けている可能性も考えられます。ツバメは集団で繁殖する鳥で、仲間が多いところに集まる習性があるからです。

 一方、浪江町の津島地区や葛尾村では、警察の駐在している建物だけでしかツバメの営巣が見つかりませんでした。この二カ所は、警察や自警組織のパトロール以外にほとんど人がいないことに加えて、街の規模が小さく、もともとツバメの数も少なかったのではないかと思われます。駐在施設以外の場所にも使用されていない古巣がありましたが、数は少ないものでした。この二カ所は数時間ほど見回ったので、見落としもあるとは思いますが。