ツバメへの放射線の影響について

ツバメへの健康上の影響を強く示唆する証拠は、いまのところ見つかっていません

現在(2013年4月)の時点までに、放射性物質による汚染地域で行われたツバメについての調査には、私たちが把握する範囲で、次のようなものがあります。

1.University of South CarolinaのTimmosy MousseauとAndrea Alquatiによる、ツバメの健康状態の調査
2.渡辺仁・佐藤信敏・神山和夫による未孵化卵の調査(本サイトに結果を掲載予定です)
3.山階鳥類研究所による巣の放射線分析
  (2012年鳥学会講演要旨PDF。ツバメを検索すると見つかります)
4.環境省による野生動植物への放射線影響調査(意見交換会のプログラム。発表内容は掲載されていません)

これらの調査結果は、上記のリンク先などで研究の一部が公表されているだけですが、いまのところツバメの健康に影響が出ていることを強く示唆する結果は示されていません。

ただし、上記3と4で調べているのは巣の放射線量だけでツバメの体は調べられていません。さらに4の環境省の調査以外では、放射能汚染が高い地域へ立ち入ることが許可されていないため、ツバメへの放射線の影響を十分に調べること自体、困難と言えます。

左右の尾羽の長さの違いについて

福島第一原発の事故による放射線被爆の影響で、ツバメに奇形が生じ、左右の尾羽の長さが異なっているのではないかという説をネットで見かけます。その可能性を完全に否定することはできませんが、ツバメの左右の尾羽の長さが異なるのは珍しいことではありません。特に、左右の尾羽に目視して分かるほど大きな差がある場合、最も可能性がありそうなのは尾羽の欠損です。尾羽が欠損する理由は、オス同士のケンカで羽にかみついて引っ張ることが大きな要因ではないかと推測されます。

ツバメのオスは、メスを巡って激しいケンカをするため(写真1)、尾羽が抜けたり折れたりすることは、よく起こります。写真2・3は、尾羽が欠損したツバメです。

写真1:ケンカでかみつく 写真2:折れている尾羽 写真3:右尾羽の欠損
     
(神奈川県秦野市 撮影:宮本桂)

チェルノブイリのツバメ

放射線の影響でツバメの左右の尾羽の長さが異なるというのは、チェルノブイリでそのようなツバメが観察されたことから(※)、日本でも話題になるようになりました。

このチェルノブイリの調査では、高放射線地域オスのツバメ52羽の尾羽を計測したところ、左右の長さの差の平均が5.25mmであり、その差が原発事故前や、事故後であってもチェルノブイリから遠く離れた場所のツバメの尾羽の差よりも大きかったということが分かっています。しかしこのような差は目視観察で判定することはできず、ツバメを捕獲して測定する必要がありますから、日本でもそのような調査をして見る必要があるでしょう。

※Moller, A.P. 1993. Morphology and Sexual Selection in the Barn Swallow Hirundo rustica in Chernobyl, Ukraine. Proceedings: Biological Sciences. Vol. 252:51-57. http://www.jstor.org/stable/49917

とにかく情報不足です

私(神山)も、2012年の繁殖期に避難地域でツバメの調査(前述の1と2)に参加しましたが、民間人の立ち入りが制限されている場所がかなりあることや、被災した地域で人家に営巣するツバメを調べさせてもらうことの難しさから、調査対象にできるツバメの数はどうしても少なくなってしまいます。

とにかく情報不足ですが、私が知り得た情報はこのホームページで公開していこうと思います。